東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)256号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 原告は、本願発明は、引用例記載のものとはその目的を異にするから、引用例の記載に基づいて本願発明を想到することは容易ではない旨主張する(請求の原因四、1)ので、まず、この点について検討する。
前記本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第六号証(昭和五七年八月六日付け手続補正書)によれば、本願発明は、「ブロー成形による容器は周側壁並びに底壁が薄肉となることを免れず、圧送ポンプ用の容器として使用した際、内圧が高まるにつれて容器壁が外方に球状に膨出し、とくに、底壁の膨出は容器を起立位に置いた場合に安定が悪くなつて転倒するなどの事故となる。」(同補正書添付の本願明細書第一頁第一九行ないし第二頁第五行)という知見に基づき、転倒の心配のない圧送ポンプ用液体容器を提供することを目的(技術的課題)として(同第二頁末行ないし第三頁第二行)、前記本願発明の要旨記載の構成を採用したものであることが認められる。
他方、引用例に、ブローモールド法により樹脂成形された大型の容器1において、容器両側壁1aを結ぶ中空のリブ2を設けたことを特徴とする大型中空容器が記載されていることは当事者間に争いがなく、引用例記載のものの右構成によれば、中空のリブ2が、容器両側壁1aの膨出を防止する機能を有するものであることは技術的に自明である。
原告は、引用例記載のものは、本願発明の重要な構成要件である、(イ)容器主体の上部に空気を容器内に圧送するためのポンプ取付口を備えたこと、(ロ)保形性を保持する支柱の両端を頂壁と底壁に固着したこと、(ハ)底壁の中央部を上げて支柱を固着していること、という構成を具備していない旨主張するが、前掲甲第六号証によれば、右(イ)及び(ハ)は本願発明の構成要件でないことが明らかであるから、右(イ)及び(ハ)の点については本願発明の要旨に基づかない主張であつて採用できない。
そこで、右(ロ)の点について検討するに、前記のとおり、本願発明は頂壁と底壁の膨出を防止し、転倒の心配のない圧送ポンプ用液体容器を提供することを目的(技術的課題)として、支柱の両端を頂壁と底壁に固定したものであるが、引用例記載の中空のリブ2の前記機能からいつて、引用例記載のものも、容器両側壁1aの膨出を防止し、保形性、安定性を維持することを少なくともその目的(技術的課題)の一つとして中空のリブ2を設けていることは明らかである。
したがつて、本願発明と引用例記載のものとは、膨出を防止しようとする箇所は異なつているが、器壁の膨出を防止し、保形性、安定性に優れた容器を提供することを目的(技術的課題)としている点では一致しているということができる。
そして、引用例には、ブロー成形プラスチツク容器において、膨出を防止することが必要である箇所に補強部材を設けることにより、当該箇所の膨出を防止するという技術的思想が開示されているものということができるから、右技術的思想を具体的に実現すべく、それぞれの技術的課題に対応して補強部材をどのように設置するかは当業者が容易になし得ることであると認められるところ、本願発明は、頂壁と底壁の膨出を防止することを技術的課題とし、それに対応すべく支柱の両端を頂壁と底壁に固定するようにしたものであるから、右構成を採用することは、前記理由により当業者が容易になすことができたものと認めるのが相当である。
したがつて、請求の原因四、1の主張は理由がない。
2 次に、原告は、審決は本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した旨主張する(請求の原因四、2)ので、この点について検討する。
本願発明においては、「ポンプを作動し容器内の圧力を高めると、容器本体1は球形になろうと外方に膨出しようとし、側壁の膨出力により頂壁と底壁とを近づけようとするが、支柱4が保形性を有するために圧縮及び変形せず、両壁は近づかず、また、頂壁及び底壁の膨出は当然のこととして支柱4が伸長しないため防止される。したがつて、この発明の液体容器は内圧の上昇によつても保形性にすぐれ、転倒などの事故が生じない」(本願明細書第三頁第一九行ないし第四頁第八行)という作用効果を奏することは、当事者間に争いがない。
しかし、右作用効果は、本願発明の構成を採用することにより当然予測し得る程度のことであつて、格別のものとすることはできない。
原告は、引用例記載の大型中空容器は、押出機からチユーブを押し出し、軟らかいうちに金型で挟み、チユーブ内に空気を吹き込み、膨らませて容器両側壁を結ぶ中空のリブを設けて作るものであるから、成形時に中空のリブは側壁よりも更に薄肉となつて強度的に弱いものとなるのに対し、本願発明に係る圧送ポンプ用液体容器は、押出機から押し出されるチユーブの押出口と支柱の押出口を別個に設け、チユーブの軟らかいうちに金型で挟み、チユーブ内に空気を吹き込んで膨らませて作るものであるから、支柱が薄肉となることはなく、そのために頂壁及び底壁の変形を確実に防止することができる旨主張する。
しかし、本願発明は、支柱の成形方法やその厚さを要旨としているわけではないから、原告の右主張は、本願発明の要旨に基づかないものであつて採用できない。
また、原告は、本願発明においては底壁の中央部を上げて支柱を固着し、底壁の全面が床面に当接しないようにして容器の転倒を防止している旨主張するが、前記のとおり、本願発明は、底壁の中央部を上げて支柱を固着するという構成をその要旨としていないのであるから、右主張も本願発明の要旨に基づかないものであつて採用できない。
したがつて、本願発明の奏する効果も予測できる域を出るものではないとした審決の認定、判断に誤りはなく、請求の原因四、2の主張も理由がない。
以上のとおりであるから、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
ブロー成形プラスチツク容器主体の上部に注液口を設けた容器において、容器主体内に上下方向の保形性を有する支柱を配するとともに、その両端を頂壁と底壁に固定したことを特徴とする圧送ポンプ用液体容器。